「固め」と「とろり」どっちが好み?プリンのおいしさの秘密
画家が美しさの秘密を解き明かそうと色彩や構図の法則性を探るように、また発明家が時計やカメラを分解して仕組みを解明するように、料理人はおいしさがどうして生まれるのかを研究しつづけている。みんなから愛されているおいしい定番デザートたちを、そんな作り手の目線から眺めてみたら何が見えるのだろうか。
この連載ではフランスの星つきレストランで修行を積んだMr. CHEESECAKEシェフ田村が、シェフの目線で「おいしい」の要素を分解し、その秘密にせまります。
第1回目はプリンです。
外はかためで中はとろり。食感の変化がプリンをさらなる「おいしい」に導く
とろけるような柔らかさのプリンから歯応えを感じる固めのプリンまで、一言でプリンといってもさまざまなバリエーションが存在します。田村はその種類の豊富さこそが、多くの人を魅了してやまない要素のひとつなのではないかと考察します。
田村:
「プリンは大きく分けて3種類あると思います。卵の味を感じられる固めのプリンなど、卵にこだわっているもの。乳製品を多めに使っているなめらかプリン。マスカルポーネやクリームチーズを加えて作るイタリアンプリン。
卵がメインなのか、それともクリームがメインなのか、チーズを生かしたものか、それぞれに個性があるため、誰もが好きなプリンを選びやすいのかもしれませんね」
さらに甘さの程度、キャラメルソースのほろ苦さの微妙な違いに至るまで、細かな好みにまで応えてくれる。各々のニーズに合った味があるからこそ、プリンはこんなにも愛されているのかもしれません。
どのプリンも間違いなくおいしい。
けれども田村は言います。
とろけるプリンでも固めのプリンでもなく、外側は固めで中はとろり、そんなひとつの中にさまざまな食感の変化を楽しめるプリンなら、さらにおいしく感じられるはずなのだと。
田村:
「プリンは例えばショートケーキのように間に苺やクリームを挟むことができないので、生地全体が同じ味になりやすいんです。変化が起きないと、人は飽きやすい。食べる箇所で食感が変わる設計をすると、何度でも食べたくなるプリンが作れるはずなんです。
プリンは卵の力を生かすことによって、プリンという形を作っています。卵に火がはいることで固くなり、プリンになるんです。なので卵が多ければ多いほど固く、牛乳が多いと柔らかくなります。
そこでこうした卵の性質と、乳製品のとろりとしたミルキーさ、両方を生かしたレシピを作れないかと思いました」
秘密はパウンド型にあり。リズムのある食感はこうして生まれる
まるで音楽のようにプリンにも抑揚やリズムがあると、さらなるおいしさが生まれるようです。そんな田村が考案したプリンのレシピをMr. CHEESECAKE JOURNALに掲載したところ、多くの方にご好評をいただきました。
さまざまなこだわりが詰め込まれたレシピですが、ぜひこのプリンはパウンドケーキの型で焼いてみて欲しいと言います。
パウンド型で焼くからこそ、プリンの中にさまざまな食感が生まれるのだとか。
まず、型に近い部分は熱が入りやすいので卵の性質上固くなります。火に近い上の部分も同様に固く仕上がる部分です。そして重要なのが、火が届きにくい真ん中は柔らかく仕上がるところです。
小さめの型だと中まで火が入りすぎてしまい、とろりとした食感が残りにくい。パウンドケーキの型で作るからこそ、外は固くて中はとろりとなめらかな、食べる度にさまざまな食感の違いを楽しめる贅沢なプリンが生まれます。
バニラが入っていないプリンなんて、考えられない
プリンの主な材料は「卵・牛乳・砂糖」。極々シンプルな素材の組み合わせでここまで愛されるのですから、プリンはなんて普遍的で侮れないお菓子なのでしょうか。
さて、シンプルだからこそ料理人の技の見せ所です。田村曰く「プリンとは、乳製品のおいしさをどこまで積み上げられるかが味の決め手にもなるお菓子」だそう。
田村がレシピに詰め込んだのは、練乳・牛乳・クリームチーズ・生クリームなどのさまざまな乳製品でした。これらを使い分けることで、ミルキーさに多くの方向性が生まれ、味に幅が生まれるのです。
さらに、甘い香りが魅力的なバニラに対しては並々ならない思い入れの強さがある様子。
田村:
「もしプリンからバニラを抜いてしまったら、とても単調な味になると思います。バニラはお菓子の中では塩みたいな役目なんです。あえてバニラを入れない時は、他にこだわりがあって、その香りを引き立たせたい時しかない。
バニラは本能的に、人が抗えない香り。お菓子を作っている最中も、バニラの香りを嗅ぐだけで絶対においしくなると思える。
食材の話をすれば、卵との相性が良すぎるんです。だからプリンには欠かせない」
ちなみに、家でお菓子を作るとなるとバニラエッセンスを使うのが主流ですが、田村のおすすめは粒が入ったバニラビーンズエッセンスだそう。いつもよりも少し本格的な味わいを作りたい時は、ぜひ試してみてください。
焦がし具合で味が変わる、キャラメルはベースの引き立て役に
プリンといえば、キャラメルソースの存在が本当に憎いと思うのです。一体誰が考えたのか、クリーミーで甘いベースにあのなんとも言えないキリッとした味わいのソースとの組み合わせ。艶々とした見た目も食欲をそそり、たまらなく良い。
脇役でありながら欠かせない存在であるキャラメルソースは、苦味と若干の酸味でプリンの甘さを引き立たせる役目を担っているのだとか。
田村:
「キャラメルソースは、プリンのベースをどう引き立たせるかを考えるべきだと思います。キャラメルソースは焦がし具合で味が変わるんです。
火にかける時間が少ないと、べっこう飴みたいな甘さになり、焦がしていくと酸味が出て、さらに熱すると今度は苦味が出てきます。
ベースはすごくおいしいけれど、キャラメルの焦がし具合がミスマッチでおいしく仕上がらない場合もある。それくらい、相性を見極めるのが大切なんです」
牛乳が作る味わいの奥行き、バニラの豊かな香り、食感の魅力、キャラメルソースのアクセント。小さなお菓子の中にこれだけのこだわりを詰め込むことができるなんて、プリンとはなんて奥深い存在。
思い描いただけでなんだかプリンが食べたくなってしまった方は、ぜひレシピを参考に作ってみてください。
型はぜひパウンド型をおすすめします。今までにないプリンの魅力を、発見できるかもしれません。
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