上質さと親しみやすさを実現した羽田空港店。“チーズケーキを納めた大きな箱”が形になるまで
Mr. CHEESECAKEが、JR東京駅構内の「グランスタ東京」に初めての常設ストアをオープンしてから、わずか5ヶ月。2025年2月、2店舗目の常設ストアが日本の玄関口・羽田空港の第1旅客ターミナルビルに誕生しました。デザイン設計は、グランスタ東京店に引き続き、negu inc.の永井さんと鶴田さんが担当。
今回は、2店舗目となる羽田空港店にどのような世界観を描こうとされたのか。その制作の舞台裏を、どうぞお楽しみください。
気軽に立ち止まり、手に取れる空間づくり
2024年9月にオープンしたMr. CHEESECAKE初の常設ストア「グランスタ東京」が位置する東京駅は陸の交通を担うのに対し、2店舗目の出店先である羽田空港は空の交通を司ります。どちらも国内の重要な交通機関として、多くの人々が行き交う要所という共通点はあるものの、駅と空港ではお客様のニーズも大きく変わります。
そのため、移動距離が伸び、搭乗までの時間も増えるという点を考慮し、Mr. CHEESECAKEでは羽田空港店のオープンに合わせて、焼き菓子商品のラインナップを増やすことを検討していました。
また、グランスタ東京店の店舗デザイン設計を踏まえ、negu inc.の永井さんと鶴田さんは「什器構成やブランドの印象について振り返る中で、商品が少し手に取りづらいのではないか」という点を課題として感じていたと言います。
『空港は限られた時間の中で過ごすお客様が多く、また高密度に店舗が集まる場所でもあります。そのため、気軽に立ち止まり、商品を手に取れる環境をつくることを意識しました。
より移動時間の長さに適した焼き菓子のラインナップを増やすタイミングでもあったため、空間には適度な余白を設け、これまでのブランドイメージを維持しながらも、親しみやすい素材や形状をアクセントとして取り入れることで、少しカジュアルな印象を加えることを意識したのが、グランスタ東京店との違いです。』
コンセプトは“チーズケーキを納めた大きな箱”

永井さんと鶴田さんは以前より、「チーズケーキを食べる空間や時間、箱や器へのこだわり、オリジナルカトラリーの開発など、オンラインショップから始まったからこそ育まれてきた“チーズケーキと人との接点を丁寧にしつらえるMr. CHEESECAKEの文化そのもの”を、空間として表現することを最も大切だと感じていた」と語ります。
そのような考えのもと、羽田空港店のコンセプトを決定する鍵となったのは、日本で古くから文化として用いられている「箱」でした。
『“チーズケーキと人との接点を丁寧にしつらえる文化そのものを空間として表現する”という、グランスタ東京店から引き継いだ考え方を出発点にしています。
日本では古くから、大切なものを保管したり、人に贈り物をする際に「箱」を用いる文化があります。 そこで空間の中に「箱」というモチーフを取り入れ、商品を箱の中に丁寧におさめるように見せることで、しつらえとしての上質さや、贈り物としての特別感を感じられる空間を目指したのです。』
上質さを損なわずに、親しみやすさを取り入れる難しさ
Mr. CHEESECAKEの店舗デザイン設計は、期間限定ストアの麻布台ヒルズ店を含めると3店舗目となります。Mr. CHEESECAKEが大切にしてきた信念を十分に理解してくださっている永井さんと鶴田さんですが、ブランドの世界観やイメージと、空港という特殊な環境に合わせて存在させるバランスの調整が今回のプロジェクトで最も試行錯誤された部分だったそうです。

『これまでのブランドイメージを維持しながら、今回の焼き菓子のラインナップ増加に合わせた印象づくりをどのように行うかという点は、検討初期の段階で悩んだ部分でした。グランスタ東京店も踏まえ、通行しているお客様への訴求の仕方についていくつか課題も見えてきていたため、空港という敷地条件の中でどのように改善していくかについても検討を重ねました。
ブランドの持つ上質なイメージを損なわないことと、空港という環境の中で立ち止まりやすく、商品を手に取りやすい空間にすることのバランスを取る点には、特に試行錯誤がありました。
その中でも、これまでのブランドイメージを維持しながらも、今回の立地に合わせてカジュアルな要素を取り入れ、手に取りやすく親しみやすい売り場をつくることは、守るべきポイントだと考え、何度かご提案を重ねながら、デザインの意図や空港という環境での見え方について丁寧に話し合い、少しずつ方向性をすり合わせながら着地点を見つけていきました。』
制約があることで実現した、機能性とコンセプトの両立
一方で、空港ならではの制約をきっかけとして、結果として機能性とコンセプトの両方を強めるデザインにつながった部分もあったと、お二人は振り返ります。

『空港という立地の特性上、スーツケースを持ったお客様の利用を考慮する必要があり、その点は設計の中で大きな制約の一つでした。そのため什器については、下部は長くきれいに使える構成としながら、木のボリュームを一定の高さから上に絞り、お客様の目線に近い位置に「箱」という要素を設ける構成としました。
これにより空間のアクセントとなると同時に、商品を丁寧にしつらえるような印象をつくることができたと感じています。 結果として、空港ならではの制約をきっかけに、機能性とコンセプトの両方を強めるデザインにつながったのではないかと思います。』
ふと立ち止まるきっかけになる、カリモク家具の什器

グランスタ東京店にも使用されている、日本を代表する国内生産の木製家具メーカーのカリモク家具様に特別に制作いただいた什器。羽田空港店では、まさに「箱」という要素をこちらの什器にて表現しました。
『なじみのあるシンプルな形だからこそ、細部のつくりが印象を左右する「箱」という要素を、カリモク家具さんの持つ木工の知識や技術を生かし、細かなR(※建築用語で「曲面」という意味)のディテールを用いながら、家具をつくるような感覚で箱をつくりたいというお話をしていました。シンプルな形状の中に、触れたときや近くで見たときに感じられる精度や質感をしっかりと表現することが、今回の什器づくりにおける大きなこだわりです。
完成した店舗を見たとき、柔らかなRが印象的な箱と浮遊感のあるディスプレイによって商品がきれいに引き立ち、上質な印象の中に、お客様へのささやかな心遣いのようなものが感じられる什器になったのではないかと思いました。
空港という慌ただしい環境の中でも、ふと立ち止まり、商品やブランドの世界観に触れていただけるような、余白を持った空間になったのと感じています。』
光で満たされた箱のような印象のショーケース
スーツケースを持った方が多く行き交う空港という環境から、象徴的な什器が生まれました。しかし、それ以外にも象徴となる部分があると、永井さんと鶴田さんは続けます。それが、ショーケースの中のレイアウトです。

『箱というコンセプトはもちろんですが、象徴的な要素の一つがショーケース内のレイアウトです。
ショーケースの構成を上下2段に分け、上段には食品サンプルや商品の情報、下段ではパッケージを配置することで、浮遊感を持たせながら情報の階層を整理して見せる工夫を行いました。
また、ショーケース全体を「箱」のコンセプトと自然につながるようにまとめ、光で満たされた箱のような印象をつくることで、ブランドの持つ上質なイメージを保ちながら商品が引き立つ空間になるよう意識しました。』
世界観や心遣いの気持ちを感じられる場所に

およそ9ヶ月の歳月をかけて完成した羽田空港店。
箱に丁寧におさめられた商品の見え方や、什器の細部のつくりから、ブランドの世界観や心遣いの気持ちを感じていただけたら幸いです。そして、この店舗での体験が、旅の思い出や大切な方への贈り物の時間の一つにそっと寄り添うような存在になることを願っております。
ー Profile ー
negu.inc
代表 永井健太
空間/エレメントデザイナー
空間とは、その場のモノ、光、音、時間、人、行為といった様々な要素の関係性によって認識される概念であり、これらの要素を複合的に知覚、整理し、構成することが空間デザインの本質と考えています。同時に、空間の構成要素のひとつである物質的なモノをエレメントと捉え、シンプルに丁寧にしつらえていくことで空間の中での正しい在り方を探求しています。身体性や人間の感覚といった普遍的な価値観と、その時代や文化といった背景を大切にすることで、永く愛される空間をつくりだすことを目指しています。
鶴田乃泉
空間デザイナー
人や行為と関わり続ける空間において、機能や条件といった制約を踏まえながら、空間のあり方を見極め、その場所や状況だからこそ生まれる価値を見出すことを大切にしています。そうした積み重ねを通じて、より豊かな体験につながる空間づくりを目指しています。
Mr. CHEESECAKE 羽田空港店
場所:〒144-0041 東京都大田区羽田空港3-3-2 第1旅客ターミナルビル2階 マーケットプレイス
営業時間:6:00〜20:00